小説 「監視されてるけど、スルーされてる男」
俺は“見張られている”。
…たぶん。
いや、絶対に、たぶん、見張られている。
そう確信しているのは、スマホの動きが微妙に遅いからだ。某国製の激安スマホを使ってるのが悪いのか、朝の天気予報を開くだけで固まる。つまりこれは監視ソフトが裏で動いている証拠で――
でもまあ、俺には何の影響もない。
なぜなら俺は、有名人ではないし、そもそも社会的影響力がマイナスだからだ。
俺の一日は、だいたいこうだ。
起床(昼過ぎ)
YouTubeで「激論!地上波では言えない○○」系動画を見る
ブログに「最近の社会がヤバい理由【生成AIに語らせてみた】」みたいな記事を投稿
LINEで母からの「ごはんできたよ」の通知を見る
マイナンバーカードで図書館の本を借りようとするが、外に出るのが面倒で断念
つまり俺は、自宅にいながら世界を見張っている立場でもある。しかも、俺の使ってる道具は全部ガバガバセキュリティ。GoogleもLINEも某国スマホも、たぶん俺の情報を吸ってるけど――
「いや、こいつから取れる情報ないわ」
って思われて、たぶんスルーされてる。
最近では発信にも力を入れている。
ブログに載せている内容は、某有名論客が言っていたことを、それっぽく生成AIに書かせたやつだ。俺は書かない。AIが書く。俺は「それっぽく見える」かどうかだけを確認する。
でも最近、ちょっとタガが外れてきて、陰謀論とラーメンレビューの境界線がなくなってきた。
「このチャーシュー、国家の陰謀を感じる」
って書いたとき、自分でもヤバいと思った。
ただ、俺にはひとつだけ社会との接点がある。
それが――選挙。
選挙の日だけは、Tシャツにズボンを履き、外に出る。なぜなら、「投票しないと何も変わらない」と思ってるからだ(何を変えたいのかはよくわからないけど)。
俺の最近の不安は、これだ。
「このままベーシックインカムとか配給制度になったら、俺のワクチン接種歴とかブログの発信とか、全部チェックされるんじゃね?」
もちろん、悪いことはしてない。してないけど、何か引っかかる気がする。ブログのタイトルがちょっと過激だったり、チャーシューに陰謀を感じたり、生成AIがたまに暴走してるだけで――
俺の配給、減らされたらどうしよう?
それでも俺は、今日も言論の自由を守るため、部屋の隅で発信を続ける。
そのタイトルはこうだ:
「監視社会に生きる自宅警備員の挑戦!ベーシックインカム時代をAIと生き抜く方法【後編】」
…閲覧数は2。俺と、AI自身だ。